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診察室の窓から


by italofran55
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エルマノンビルの墓

カミュの異邦人を フランス語で読み終わる 恥ずかしいくらい時間がかかる
おそらく 名文家なのだろう フランス語のよくわからない私でさえ
簡潔で事物的な 説明は少ないがすべてを語り尽くす、深くて軽快な文章の連続に圧倒される
これが地中海文学なのだろう

とくに小説の終わりあたりに 
聴聞僧が死刑囚の前に現れるころから 小説世界が実は一変し 即物的に表現される壮大で美しいそして絶望に満ちた哲学が開陳される

普遍的な人がじつは見えない牢獄にいてすぐそこにいる世間的な暴力と確実に迫り来る死と対峙している
それはあらゆる人間がであう寓話のようなものなのだろう

死を意識したとき皮肉なことに世界はその甘い果実を囚人の前の現出させる

カミュやグルニエの事象の裏に潜む心理をえぐり出す文章はスタンダールなどにも見られる
おそらくじつはフランス文学の正当な後継者なんだろう

なぜこの本を読んだのだろう
玉村豊男のプロバンス NHKでの放映に ジャン・グルニエという哲学者の簡素な真夏の別荘が映っていた
そのあたりから 彼に興味を持ちはじめた

カミュはアルジェの高校にいたときからグルニエの優れたの教え子であり、自動車事故で突然死するまでその師弟の深い尊敬と友情は続いている 往復書簡も買ったがまだ読んでない 閑暇があればどこかに持って行って読んでみよう

カミュの墓は南プロバンスのルールマランという鄙びた美しい村にあり グルニエも滞在していたことがある
いつか住みたいなと思う かわらぬ村の中央にある広い草の運動場に寝転んで見上げた空が
忘れられない 

グルニエの別荘はそこからクルマで2時間くらい北の高地プロバンス シミオネ・ラ・ロトンダにある
グルニエの著作を原文で読もうと思っててはじめに 諸島 という本を手に入れて読んでいる
なだたる美学哲学者であるが難解な言葉は一切使っていない が難しい

感覚的な言葉で深い哲学を語ろうとすると わたしのような異邦人にとってその外国語は実はひどくやっかいだ
カミュはこの師の文体を深く物にしているといってよいだろう

諸島のなかに ケルゲレン諸島という章があり
そこに、ルソーはエルマノンビルにおいてさえ迫害された という一節がある

註を読むと ルソーは死の六週間前にエルマノンビルにあるジラルダン侯爵の城館にかくまわれて
死去したとあり
エルマノンビルの城館はパリの北西45km 深い広大な森 森の間に広がるデゼールー白い砂丘上の荒れ地 そしてその庭園の池の中にルソーの墓があったという

私の感ではフランスはこの一帯を完全に保存しているだろうということであり
インターネット上の画像で検索するとやはりその通りであった
いつかいってみたいものだ

私の驚きはパリの近郊にそのような驚くべき神秘な場所がまだ完全に残っていることだけではない
イブ・サン・ローラン自伝映画にでてきたパリ郊外の別荘も之が地上の物かと思われる物であったし
旅行者が知らないすごい世界がヨーロッパにはおそらくごろごろしている
それはおそらく自由で豊穣で強靱な精神世界と相応しているのだろう

それより、ルソーといえばその後のフランス革命やヨーロッパの市民革命の先達となった
当時の最重要危険人物であるが

それを平然とかくまう高級貴族がおり
またその城館がそのまま保存されていることである

ウィキリークスの創始者が追われてイギリスの有力者にかくまわれているのに似ている
個人財産と自由が権力からちゃんと守られているのと思われる

カミュの読後感から思わぬ方向に夢想してしまったが

私が魅了されるフランスの深さはいろいろなところを掘っても通底している様に思われる。
それにしてもいつグルニエの著作をフランス語で読み終えるのはいつだろう
写真はシミオネ・ラ・ロトンダエルマノンビルの墓_c0156217_915177.jpgと エルマノンビルの城館エルマノンビルの墓_c0156217_910097.jpg
by italofran55 | 2012-03-13 09:16 | 文学